むかしむかしあるところに、1国の王政国家がありました。
その国では民に手厚く、懐の深い王だと評判も上々でした。
さらに教育にも力を入れていたため、若く勇猛な騎士が多く育ち、その噂を聞きつけた有望な若者までもが集うようになっていきました。
そのため国力は増し、今後数百年は安泰であろうとまで言われるほどの大きな国となっていきました。
一方、その隣国には小さな国々が点在していました。
しかしその国々には王国に対抗する力もなければ、隣国同士で徒党を組んで王国を倒そうとする気概もありませんでした。
ただ自国の民が生活できればいい。
そういった国々に囲まれていたため、特に争いも起こることなく平和な日々が訪れるはずでした。
…しかし。
事件は突然起こりました。
隣国の内の1国で内紛が起こったのです。
その国は隣国の中では比較的大きな国であり、王国含め周りの国々は静観するようにことの成り行きを見守りました。
しかし火種は日に日に大きくなり、やがてその国の傭兵隊長が謀反を起こし周りの傭兵仲間を引き連れて独立を宣言して新たな国を建国したのです!
とはいえ傭兵だけで構成された国。
いくら軍事力が強かろうと、まだまだ小さく建国直後の混乱で廃れるのは時間の問題だと思われていました。
それより何より隣国たちからは、分裂前の政権に返り討ちにされ短期の存続すらも危ういと見られていました。
しかし、分裂前の政権も内紛後の復旧に時間がかかり報復をする力は残されていませんでした。
そのため新たに建国された軍事国家を黙認する形で、自国の復旧を急いだのでした。
その頃、その軍事国家は未だに分裂前の政権への報復を誓っていました。
そのためかつてのツテや新たな傭兵を雇い入れ、更なる軍事強化に力を入れました。
しかし最新の近代兵器を揃えながらも、ツテや噂で迎え入れた新しい傭兵はあまり質が良い人材とは言えません。
もどかしさを抱えながらも民への教育を進めるうちに、傭兵隊長は次第に変わっていきました。
それはまるでかつて繁栄をきわめた、あの王のように。
反撃の機を窺いながらも互いに硬直状態が続く中、いつしか傭兵隊長は自国の民を大事にするようになり、それに伴い軍事国家は少しずつ活気があふれ始めていたのです。
そのまま月日は流れ…。
王国も2人の宰相を育て上げ、新たな領土を獲得して更なる発展を遂げようとしていました。
軍事国家にも次第に人の行き来が増え、交流が生まれ国が安定し始めた頃でした。
…また事件が起こります。
突如として伝染病が流行し、その一帯の国々は一気に悲鳴に包まれました。
その伝染病は恐ろしく、小さな国では大半の国民を蝕み、いくつかの国が伝染病によって国としての機能を失い消滅してしまうほどでした。
その影響はもちろん、王国にも軍事国家にも表れます。
しかし、それぞれの国の対応が違いました。
王国では既に王自身、宰相に任せて国政から退いていたこともあり国の内情が分かりませんでした。
そのため周囲から入ってくる噂に恐怖し、自らの富を囲い込むようになりました。
そこに慕われていた頃のかつての王の姿はありませんでした。
次第に有能な騎士たちは王の元を離れ、2人いた宰相のうち王に警告をする片方を切り、王の言いなりとなる宰相だけを手元に残しました。
そしてだんだんと王国の国力は弱まり、今まで気にもかけなかった軍事国家にさえ危機感を覚えるようになりました。
それは一方的な敵視であり、王の錯乱により無茶な政策が乱立することとなりました。
そしてあれ程まで栄えた王国は今では見る影もなく、誰も近寄らない独裁的閉鎖国家となったのでした。
一方軍事国家の傭兵隊長は、そんな状況下でも人の交流を大事にしました。
伝染病が蔓延する中、人の出入りを規制しなかったことは大きなリスクでもありました。
しかしそのおかげか、国内には悲観的な空気はなく民の活気も少しずつ戻ってくるのでした。
この歴史から学べる教訓は伝染病の恐ろしさではありません。
人を大事にすること。
そして争いをせず平和を重んじること。
現代では今まさにオリンピックが行われています。
オリンピック、別名「平和の祭典」。
スポーツによって競い合い、試合が終わればお互いを称え合う。
違う国の人でも国の壁を超えて認め合い、そこで生まれる交流を大事にする。
この世界には今なお、戦争や紛争は絶えません。
しかし一方で、オリンピックという素晴らしい機会があることには感謝しなくてはなりません。
いつしか本当に、みんなが笑って手を取り合える日を願って…。
fin.